魚沼市(新潟) 高鼻山(817.4m)、土崩山(934.3m)、まないた山(652m)、魚止山(722m) 2023年4月1日〜4月2日  カウント:画像読み出し不能

所要時間

4/1
5:24 駐車箇所−−5:29 除雪終点−−7:08 巡視路入口 7:12−−8:28 570m鞍部(荷物デポ) 8:57−−9:10 送電鉄塔−−9:45 800m峰−−9:55 810m峰−−10:17 800m峰−−10:41 高鼻山(休憩) 11:30−−11:51 800m峰−−12:15 810m峰−−12:47 送電鉄塔−−13:02 866m峰−−13:39 土崩山(休憩) 14:16−−14:34 800m峰 14:39−−15:08 横沢 15:10−−15:17 570m鞍部(幕営)

4/2
5:23 570m鞍部−−5:46 まないた山(652m標高点)−−5:53 まないた山最高点−−6:17 664m峰−−6:35 689.2m三角点峰−−6:53 魚止山(休憩) 7:00−−7:16 689.2m三角点峰−−7:32 664m峰−−7:52 まないた山最高点−−7:55 まないた山(652m標高点)−−8:08 570m鞍部 9:03−−9:52 県道−−10:49 休憩 11:16−−11:50 除雪終点−−11:54 駐車箇所


場所新潟県魚沼市
年月日2023年4月1日〜4月2日 テント1泊2日
天候快晴
山行種類残雪期の藪山
交通手段マイカー
駐車場向松川集落の除雪終点に駐車
登山道の有無570m鞍部南側の送電鉄塔までと870m峰周辺は送電線巡視路があるが他は道は無い
籔の有無道が無い尾根は潅木藪。ただし無雪期でも我慢できるレベルのように感じた
危険個所の有無860m峰から横沢への下りで使った尾根は超急傾斜で岩混じり。藪が濃いので簡単には転落しないと思うが、尾根を左に外れると崖に近い傾斜なのでルートに注意。お勧めできない尾根である
冬装備ワカン(未使用)、ピッケル、10本爪アイゼン
山頂の展望どの山もこの時期は展望良好
GPSトラックログ
(GPX形式)
ここをクリックしてダウンロード
コメント残雪が期待できるうちに高鼻山、土崩山、まないた山、魚止山をテント泊でまとめて片付けることに。好天に恵まれて展望を楽しみながら稜線歩きができたが送電線巡視路を除いたルートの3〜4割で雪が落ちて藪漕ぎとなり想定以上の雪の消え方だった。今回辿った尾根は刃物跡の切り口を持つ枝を何箇所も目撃し無雪期でも入山者がいる模様。特に巡視路から土崩山間は比較的新しい切断面も見られ、無雪期登山成功の可能性が最も高そうだった


866m峰から見た土崩山
地図クリックで等倍表示
1日目のルート断面図
2日目のルート断面図


駐車箇所 除雪終点
水田地帯はデブリ無し 谷が狭まるとデブリが増える
デブリが固いのでアイゼン装着 デブリの山
送電線巡視路入口 巡視路は南斜面をジグザグに上がる
ここは道が良好な場所 今年初のイワナシ
イワウチワ 対岸には先週歩いた稜線
長いトラバース 杉植林帯。巡視路が全く見えなくなる
植林帯を出たところ。やっぱり巡視路は不明 ブナに彫られた文字
斜面上方の送電鉄塔 谷筋にはデブリ。帰りには新たなデブリが加わっていた
巡視路はトラバースし続ける 岩が露出した箇所もある
570m鞍部の除雪用具 570m鞍部。尾根が細い
570m鞍部から見上げる土崩山へ繋がる稜線 570m鞍部東側の横沢には青いビニールシートあり
570m鞍部から見たまないた山へ登る尾根 ここに荷物をデポ
高鼻山へ向かう 急斜面に鎖と古びたフィックスロープあり
横沢の下流側を見ている 横沢の上流側を見ている
横沢の中の2つの穴は滝 送電鉄塔
送電鉄塔より先の尾根上は道無し 標高660m付近
標高660m付近。稀に目印あり 標高680m付近
標高700m付近 刃物跡。人跡未踏の地ではない
標高710m付近 対岸の尾根上には巡視路あり
740m峰直下 740m峰から見た800m峰
740m峰から下るとすぐに藪 標高760m付近で雪に乗る
800m峰から見た810m峰〜高鼻山の稜線
810m峰へ向かう。雪が続いていて一安心 810m峰への登り返し
810m峰 810m峰から見た土崩山方面
810m峰から見た土崩山
810m峰から見た高鼻山方面
810m峰からの下りはすぐに藪 古い切り株
2種類の境界標石 標高790m付近
標高780m付近 770m鞍部で雪に乗る
780m肩でまた藪に突入 790m峰への登り
800m峰北側鞍部は小さな二重山稜 800m峰への登り
800m峰の一角。南を見ている 800m峰てっぺんから見た高鼻山
標高780m付近。また藪だが短距離 標高770m付近
740m鞍部 740m鞍部の境界標識
今年初めてのカタクリ。まだ一輪だけだった 標高760m付近。西尾根が合流
標高790m付近。藪が薄い西斜面を巻いた 標高800m付近
高鼻山直下 高鼻山山頂
高鼻山山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
高鼻山山頂から見た往路の尾根と土崩山。かなり遠くがっかりする
高鼻山から逆戻り 黄色い頭の境界標識
高鼻山西尾根分岐から見た稜線 800m峰
800m峰から見た土崩山 790m峰への登り返し
790m峰 790m峰からの下り
770m鞍部から810m峰を見上げる。完全に藪が出ている ここから藪に突入
810m峰 810m峰から見た800m峰
土崩山に繋がる東側の尾根に向けて下る 正面に谷が見えたので右にトラバース
尾根に乗った 790m峰への登り
790m峰から見た870m峰 770m鞍部まで藪
古い切り株 770m鞍部で残雪登場
870m峰へ登り返し 標高790m付近
標高820m付近で東斜面から巡視路登場 東斜面の巡視路は雪の下
尾根上は雪が無い。巡視路が無ければ灌木藪 送電鉄塔
送電鉄塔より先も尾根上に巡視路が続く 目印
870m峰は西を巻く 870m峰直下から見た土崩山
840m鞍部で巡視路は稜線西側へ下る おそらく鞍部からトラバース気味に巡視路は下っていく
840m鞍部から先は尾根上は灌木藪 比較的新しい切り口。1年以内の可能性も
866m峰 866m峰から南西に下る尾根=巡視路がある尾根を見下ろす
866m峰から見た土崩山 866m峰を下り始めると藪
またもや切口。比較的多く見られた イワウチワ。あちこちで満開状態だった
マンサク 860m峰直下
860m峰から見た土崩山 標高860m付近
840m鞍部から藪 標高860m付近で雪に乗る
標高870m付近から見た870m峰、866m峰、860m峰 標高870m付近は熊棚密集状態
山毛欅に残った熊の木登り跡 標高880m付近
標高920m付近 土崩山山頂
土崩山山頂から見た360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
テント場に戻り始めるがまだ先は長い 標高860m付近から見た3つの連続ピーク
860m峰から見た魚止山 860m峰から見た866m峰、870m峰
860m峰南側から見た西斜面 860m峰から見た西尾根。ショートカットでここを下ることに決定
標高850m付近 標高850m付近の小さな岩を振り返る
標高840m付近で一時雪に乗る 標高820m付近で雪と分かれて左の藪尾根へ
標高820m付近から振り返る 標高820m付近の藪
標高770m付近。傾斜が一時的に緩まる 標高760m付近
標高760m付近の岩。高さ2m程度だが灌木でクリア
標高750m付近から見たまないた山〜魚止山の稜線。かなり雪が落ちてしまって藪が多い
標高720m付近。まだ急傾斜がある 標高720m付近でようやく雪が連続する
標高670m付近 標高630m付近
標高620m付近から見たまないた山 標高560m付近。尾根を乗り換えるためデブリの谷を横断
横沢下流側を見ている 横沢はごく一部で流れが出ていた。ここは横断不可の場所
横断可能な場所を探して南下 570m鞍部の真東のビニールシートは屋根だった
570m鞍部北側のこの雪面を登って鞍部へ出た このスノーブリッジで横沢を横断
横沢の流れは小川程度だった。ここで水を汲めた 570m鞍部への登り返し
下ってきた尾根を振り返る。猛烈な傾斜で登る気は起きない テント場到着
一輪だけ咲いたタムシバ 熊棚ではなく鳥の巣
テント設営完了。地面の上で温かく過ごせた 翌朝は明るくなってから出発
最初から藪漕ぎ 五葉松?が並ぶが危険個所は無い
この稜線にも少ないながら刃物跡あり 黄色い頭の境界標識
標高610m付近。こんな灌木が一番厄介 標高630m付近で雪に乗る
地形図上のまないた山山頂(652m標高点) 652m標高点肩から北の肩を見ている。明らかに高い
昨日下ってきた尾根。写真では傾斜は普通に見えるが現地で実物を見ると傾斜の凄さが分かるだろう
まないた山最高点(北の肩)
まないた山最高点から見た土崩山
標高640m付近。まだ辛うじて雪が続く 鞍部を登り返して標高640m付近で藪に突入
標高650m付近 タムシバ
664m峰直下 664m峰から振り返る
664m峰の小さな岩。大したことはなく普通に越えられる 664m峰から見た魚止山
640m鞍部から短い藪漕ぎ 標高650m付近
標高650m肩から再び藪漕ぎ。今度は長い 標高650m肩から振り返る
標高660m付近。全体的に岩っぽく藪が薄くて助かる 標高660m付近
標高670m付近 689.2m三角点峰。残念ながら三角点は雪の下
標高680m付近から見た魚止山。概ね雪が繋がっているようだ 670m鞍部から先は雪が残った西斜面をトラバース
稜線の残雪がつながった付近で上を目指す 標高690m付近
標高700m付近 魚止山山頂
魚止山山頂から見た北〜東〜南の展望(クリックで拡大)
元来た尾根を戻る 魚止山南の標高690m付近から南を見ている
689.2m三角点峰から南を見ている 標高650m付近
640m鞍部付近 640m鞍部からの登り返しで雪にありつく
664m峰から見たまないた山 票j興650m付近の灌木。地面に足が付かなかった
まないた山最高点(北の肩) まないた山最高点から横沢上流方向を見ている
地形図上のまないた山山頂(652m標高点) 570m鞍部へ向けて下降開始
先週撤退した岩尾根 標高630m付近から雪が消える
テント到着
570m鞍部から見た土崩山に至る尾根と昨日下った尾根
テント撤収完了。重量は17kg前後か テントを張った巡視路
巡視路を下り始める 最初はトラバースの連続。アイゼン使用
ここもトラバースだが雪が多すぎてルート不明に ルートを失い小尾根の先で藪にぶつかり上へ
巡視路を探して尾根を登っている最中 ここが巡視路
上部に送電鉄塔 杉植林帯は残雪豊富で巡視路がどこだか全く不明
杉植林帯の通過はGPSの助けを借りた 植林帯出口。杉は花粉を飛ばしていなかったがもう終了か?
もうちょっとの間はトラバース 雪で巡視路が削られ斜面に同化した角度に傾いている
椿。これが群落化した藪だと厄介 藪に引っかかったゴミ
林道到着 送電線巡視路入口の目印
雪が消えた林道肩をできるだけ歩いた 路面は舗装。県道だけはある
自分の足跡。昨日の足跡は残っていない 雪が消えた地面にはフキノトウが多数見られた
初めて見る花「カキドオシ」。コゴメグサに似ている印象を持った 別の巡視路入口
これくらい雪が消えていると楽なのだが スミレ類だが種類不明
水が得られるここで休憩 上のスミレとは色も大きさも葉も異なるので別の種類
エゾエンゴサク。これも初めての花 カタクリの群落。林道脇の日当たりのいい斜面で多数見られた
キクザキイチゲ。白と薄紫の花があった 白いキクザキイチゲの群落
水田地帯 ミニサイズの携帯電話基地局
今年初のショウジョウバカマ 除雪終点
松川川にかかる橋から見た繁松山 ミヤマタネツケバナに似ているが種類不明
駐車箇所到着
須原から見た魚止山〜繁松山


 先週末に繁松山に登り、この界隈で未踏はあおり山と一本東側の稜線の高鼻山〜ほとら峰だけとなった。ほとら峰は里に近いので雪さえあればお手軽に登れそうだが、高鼻山〜魚止山はもう少し手がかかりそう。最も面倒そうなのが高鼻山と土崩山。高鼻山は謎の県道終点となっているが、どう考えても道があるとは思えない。試しにネットで検索してみたが案の定登山道は無いとのことだが無雪期に藪漕ぎして登った記録が見つかった。土崩山についても調べたら南側の870m峰直下の送電鉄塔に到る送電線巡視路から無雪期に往復した記録を複数発見できた。いずれも無雪期でも可能と判明したが、当然ながら藪で時間がかかるのでそれぞれの山を単独で日帰りで登った記録である。残雪で藪が回避できる状態であればこれらの山をまとめて一気に登ることも可能であり、これは効率的で非常に魅力的な計画であった。

 地形図を見ると上記2山の近くにまないた山、魚止山もあり、この4山をまとめて登ることにした。ただし、残雪期では松川川沿いの林道(県道)は向松川集落で除雪終点となり、その先は未除雪で長い林道歩きが加わる。先日の高倉山の経験からこれでは日帰りは無謀であり、山中でテント泊が必要だろう。2日かかるので2日間天候が安定する必要がある。幸い、今週末付近は日本海側は2日と言わずしばらく好天続きの予報であり、計画実行の絶好の機会であった。今回は標高が低い山なのですぐに雪が解けて藪が出てしまうから実行は早ければ早いほど良い。

 ルートであるが当初は県道終点まで県道を歩いてまず高鼻山へ登り、稜線上を810m峰まで進んで荷物をデポして土崩山を往復し、まないた山南側の570m鞍部で幕営。翌日はまないた山、魚止山と縦走して魚止山西尾根を下る計画を立案した。しかし、テントを背負って歩く距離をなるべく短くしてテントに荷物を置いて軽装で歩く距離を延ばす方がいいとの判断に傾き、最初に送電線巡視路を利用して570m鞍部に登って荷物をデポし、尾根経由で高鼻山、土崩山を往復し、翌日にテントを畳んでまないた山、魚止山と縦走することにした。さすがに年齢的に春山幕営装備で長時間歩くのはだんだんきつくなってきているのであった。それにこの計画なら少なくとも登りで幕営装備で藪に突っ込むことは無い。

 向松川集落は先週来たばかりなのでカーナビ無しでも問題なし。先週と同じく集落から僅かに北に離れた県道除雪終点に駐車。人家から離れた場所でありここなら土日の2日間止めっぱなしでも気にする住人はいないだろうが、念のためにフロントガラスから見えるように土日の計画を書いた紙を置いておいた。これで警察に通報される心配は無くなった。

 今週は気温が高めで雪の状態が心配であるが土曜朝は氷点下まで冷え込んだようで路面の雪解け水はカチカチに凍っていた。これは雪山にとってはいい条件である。今回の冬装備はワカン、10本爪アイゼン、ピッケルである。先週の雪の締まり方からしてスノーシューが必要な場面は無いと判断した。もしかしたらワカンさえも不要かもしれないが、日当たりが悪い場所では踏み抜きの可能性もあり持って行くことにした。

 幕営は約1年ぶりであるが今回は比較的標高が低いので厳重な防寒装備まではいらないだろうと荷物は僅かに減らしたが、雪の上で寝るときの背中の冷たさが最大のネックになるので、エアマットの他に銀マットも持つことにした。シュラフは当然ながら冬用の重いもの。雪を溶かして水を作るためにガスは多めというか新品のガス缶と同じく容量100g+金属缶自体の重さ100gの計200gのガス缶を持った。

 行動時間がかなり長いと予想されたので重くなるが飯は多めに持つことに。それでも2泊よりは軽いのでマシである。酒のつまみも忘れない。これらは下山時には消費されて重さが無くなるので多少多くても問題ない。

 電池も軽量化のため今回は新品の単4充電池を購入。主にGPSの電源に使用するが、今の電池だと10時間持つかどうかであり予備電池2本が必要である。新品でどれだけ変わるか分からないが、ラジオとLEDライトの電源も単4に統一したのでGPSと兼用可能だ。ちなみにラジオやLEDライトは春山1泊では電池が無くなるまで使うことは私の場合はあり得ない。これに携帯音楽プレーヤが加わる。デジカメは2日間なら写真を撮りまくっても電池切れは無いだろう。

 久しぶりの50リットルザックを背負うと重いこと! ずっと日帰りばかりであったからなぁ。ただし足元はいつもの防寒長靴ではなく新調した登山靴。いつもの防寒長靴は重いのがネックで体力を消耗するため幕営用に購入したものだ。古い登山靴はあるが既に防水性能はゼロに等しいので真冬ならともかく日中は雪が溶けてビシャビシャになる残雪期には全く使えない。近年のゴア靴は昔の皮の登山靴と違って購入時にフィッティングを確認しておけばいきなりの実戦投入でもほぼ問題は生じない。実際、今回もそうであった。

 今回歩くのは松川川右岸側の県道であり、駐車箇所から橋を渡って対岸の除雪終点から雪に乗る。最初は日当たりのいい水田地帯であり雪の締まりは非常に良くてつぼ足でも全く沈まない。これが最後まで続けば非常に楽だがそうもいかないだろう。でも往路では杉の日陰になる箇所以外はほとんど沈まず楽に歩けた。

 この林道(県道)は最初は平野部を通っているのでデブリも皆無で歩きやすい。谷の幅が狭まりデブリの押し出しが出現しても危険箇所は無いが、朝は雪が硬く締まってつぼ足ではキックステップが利かないほどであり、滑って沢へドボンしそうな箇所があるので面倒だがアイゼンを着用。その後は570m鞍部までアイゼンを付けたままで歩いた。

 谷が狭まると魚止山方面から西に落ちる尾根が次々と現れるが、ことごとく雪が全く無く強烈な根曲がり潅木に覆われていた。谷筋にもほぼ雪は無い。西斜面なので雪解けが早いことは分かっていたがこれほどとは思っていなかった。これでは魚止山からの下りはほとんど雪は利用できないで藪漕ぎだろう。この時点で送電線巡視路で570m鞍部に上がる計画にしておいて良かったと心底感じた。それと同時に魚止山はどうしようかと悩むことに。魚止山から林道に下る尾根はどこも雪は期待できずに根曲がり潅木藪で、これを幕営装備の大ザックで突っ込むのは無謀である。こうなると軽装でまないた山だけ登って巡視路で下るか、もったいないがまないた山を経由して魚止山まで登ってから幕営地に戻って下山か。土崩山でまないた山〜魚止山の残雪状況が見えるだろうからそこで判断することにした。

 送電線巡視路入口は地形図ではまないた山南西尾根の末端であるが、ネットで土崩山の記録を見たときに巡視路入口は地形図より500mほど先であるとの表記を見たので、そこを発見できるかが最初の関門となろう。まないた山南西尾根の末端は松川川に大きく張り出しているので読図することなく簡単に場所判明。ネットの記録どおりに尾根の先端には道が無く根曲がり潅木藪に覆われていた。尾根を回りこんでさらに進むと何の目印も標識もないが道らしき筋の入口を発見。しかしすぐに残雪に隠れてしまい道が続くのか判断できなかった。他にそれらしき場所が無いか俎板沢にかかる橋まで行ってみたが他は法面で登れないか藪に覆われていて、先ほどの場所しかあり得なかった。

 逆戻りして道らしきものを登るとすぐに広い残雪帯に覆われて道の続きが全く分からないが、そこは周囲の植生や地形を参考に勘で道が続いていそうなルートを登ると無事に道の続きを発見。根曲がり潅木をきれいに刈り払った立派な道であり送電線巡視路に間違いない。この道が無ければ今回の計画は林道歩きで終わっていただろう。それほど周囲に雪は無く藪は濃かった。

 巡視路は尾根の南斜面をジグザグに上がっていく。頻繁にメンテがされているわけではなさそうで、雪の影響で巡視路の肩が削れて斜面と同じ斜度の斜めになった箇所も多く見られ、そんな箇所で登場する硬く締まった雪の通過にはアイゼンが必要だった。斜面の傾斜は結構あるので滑落したらマズそうであった。

 ジグザグ道での登りの間は周囲は潅木藪であったが、トラバースに変わって杉の植林帯に入ると豊富な残雪で巡視路がどこにあるのか全く分からなくなった。地形図ではトラバースするように描かれているがここまでの表記は実際の道とは全く合っていなかったので信用していいのかどうか。このまま雪が続くのなら巡視路は無視して適当に登ればいいが、日当たりの悪い植林帯を抜ければここまで同様に雪が消えて藪が出ているの違いない。よってそこに出る地点で巡視路入口が分からないとその先が藪漕ぎになってしまう。

 植林帯をトラバースしながら緩やかに登っていき、小尾根を回りこんで西斜面から南斜面に変わるところで先の自然林の斜面が見通せるようになった。半分程度雪に覆われているが斜面を横断するような直線状の残雪帯で巡視路を見分けることができ、今いる場所より少し下った箇所であった。適当に歩いたが自分の予想はいい線をいっていた。

 大半が雪に覆われているが所々で地面が出て巡視路と分かる。ブナの明るい自然林で上部には送電鉄塔あり。それに繋がる東に延びる送電線の先にはずっと高い場所に送電鉄塔が見えていた。まだまだ遠いなぁ。でもあそこはテントを置いて歩ける場所である。

 送電鉄塔南側から先は残雪の急斜面のトラバースが続く。不気味な雪崩がいくつもあり、帰りには往路では無かったブロック雪崩があったり。ここでも下手に滑ると下まで滑落するので慎重に横断。岩が露出した場所もあってアイゼンがかわいそうだがまだ先にも急雪面のトラバースがあるのでアイゼンのまま通過する。

 最後の雪田を通過して僅かに登ると土手のように細い尾根に変わり、東側直下には雪に埋もれた谷が登場。ここが570m鞍部であった。しかしこれほど尾根が細いのは予想外で、尾根上にテントを張るのは不可能であった。東の谷底が一番いいかと思いかけたが、鞍部西側の巡視路上が僅かに斜めになっているが雪が無い地面でデコボコも無く、1人用テントならギリギリ張れそうな幅であった。土の上で寝られれば暖かさは段違いであり、どうせ他に人がやってくるとは思えないで巡視路上を幕営場所に決定した。なお、このすぐ横のブナの木にはスコップとスノーダンプがぶら下げてあったが明らかに除雪用具である。いったいどこを除雪するための資材なのか謎であった。

 今夜の宿が決まったので余分な荷物をデポしてまずは高鼻山に向かうことに。大きなビニール袋に荷物を入れて口を縛ってデポ。まあ、この天気なら雨の心配は無いが。ワカンもデポすることにした。林道歩きで全く出番が無く、日当たりがいい稜線なら踏み抜きはほぼ考えられないと予想したからだが、結果的には大正解だった。最初からワカンを持たなければ1kg以上軽量化できたのにと後悔。もうアルプス級以下の山なら新雪がよほど積もらない限りはつぼ足でOKだろう。本格的な残雪期の到来である。

 持ち物は10本爪アイゼン、ピッケル、水、食料。もう日が高く暑いくらいなので防寒着は不要と判断。代わりに日焼け防止の麦藁帽子。既に顔には日焼け止めを塗っている。さて何時間後にここに戻ってこられるか。予想以上に雪解けが進んでおここから見上げる土崩山の稜線には全く残雪は見られず、もしかしたら長距離の藪漕ぎが必要かも。こうなると巡視路様々である。

 570m鞍部からの登り返しは地形図の表記と異なってとんでもない急登で、鎖と古くてヤバそうなロープが垂れていた。ロープは全く信用できないのでクソ重たい鎖で補助しながらクリア。これは雪が付いていたら厄介だろう。

 傾斜が緩んで尾根上の良好な巡視路を進むと送電鉄塔が登場し巡視路はここで途切れていた。いや、正確にはおそらく続きは雪に覆われた東斜面へ下っているのだろう。谷を隔てた対岸の尾根上に次の送電鉄塔が立っているのが見えている。高鼻山へはこのまま尾根を直進だが残雪が豊富な谷底を辿るのも一つの方法と思えたが、ここから下る標高差は結構あるし、谷の一部は滝があるのか口を開けて轟々と水音を立てている。滝の両岸の傾斜はそれなりにきつくトラバースが厄介そうだと判断してこのまま尾根を進むことにした。アイゼンは邪魔なのでここでザックに収納。

 尾根上の藪は先週の繁松山と同じく細い潅木が主で、歩きやすいとは言えないが歩けないと言うほどでもない。豪雪地帯としては藪は弱い方だが標高がまだ低いからだろうか。残雪が現れたのは標高710m付近からであった。雪質はつぼ足でもほとんど沈まずに快適。まあ、今は午前中は日当たりの悪い西斜面を登っている影響もあるだろうけど。左手には先ほどの送電鉄塔の続きの送電鉄塔が尾根上に見えているが巡視路はどう付いているかと尾根上に筋が無いか探してみたら広がった尾根の南側に見えていた。下部は雪に埋もれているので尾根取り付きがどこなのか不明だが、やはり沢を横断しているようだ。ということは雪の下に橋があるのだろうか。

 740m峰に達して下りにかかると再び雪が切れて灌木藪が出ているが、730m鞍部からの檻にかかると残雪が現れ、795.9m三角点のある800m峰への登りはずっと雪が続くので藪から開放されて快適である。正確には800m峰山頂直下だけ藪が出ていたので左から巻いたが。しかし左手の土崩山に続く尾根は雪が落ちている距離が長い、というよりも尾根上に雪がほとんど見えない。これは思ったよりも藪漕ぎに苦労しそうだ。

 その土崩山に続く尾根の合流点である隣の810m峰へも残雪が使えて藪を回避してピークに立つ。高鼻山はまだ遠くに低く小さく見えているが、標高はここよりも高いはずである。山頂部は残雪に覆われるがこれから向かう高鼻山への稜線はあちこちで雪が落ちて藪が出ているのが見える。810m峰から770m鞍部まで下る区間から早速雪が無い。今年は年末年始は寒波が入って大雪となった地域もあったが、春先の気温は全国的に高いまま推移したので雪解けが早まったのかもしれない。土崩山方面も雪が落ちて藪が出ている場所が見えていた。あちらは送電鉄塔付近は巡視路があるので雪が無くてもいいが、それ以外の場所は雪が無いと困る。

 810m峰の下りが始まると同時に雪が消えて灌木藪に突入。長い距離で藪が続いているのが見えるのでピッケルはザックの横に括り付けて手は藪漕ぎ用に空けておく。灌木は高さ2〜3m程度で森林限界を思わせる矮小なものではなく、枝なのか幹なのか分からないがそれらを分けるのには腕力が必要で明日は腕が筋肉痛になりそう。たまに地面付近から四方に枝を伸ばした少し枝が頑丈な潅木が登場して難儀する。それでも石楠花やハイマツが無いのでいい方である。私にとってはアレルゲンの笹が無いのが一番ありがたい。今日のように天気がいいと長袖のまま藪漕ぎするには暑すぎる。藪の中にも獣道があるが小動物らしく、人間やカモシカでは通過できない低い木の下を通っていたりして100%が使えるわけではないが無いよりはずっといい。笹藪も潅木藪もそうであるが、できるだけ尾根直上を辿るのが一番楽に藪漕ぎできるルートである。それは藪が地面に対して直立しているからで藪が分けやすいから。これが左右の斜面だと藪が下を向いているので進行方向に対して藪が全て横向きとなり、まるで通せんぼをしているように漕ぐのが大変になるのだ。

 意外にもピンクリボンの目印が散在し、取り付けられた高さは目の高さなので無雪期のものであろう。地面には境界標識も見られたので人跡未踏の地ではない。よく見ると灌木の根元が刃物で切断されたきれいな平な面を持つものがあり、甚だ不完全ではあるが藪を刈ったことがあるのは間違いなかった。ただしかなり古いもので少なくとも10年以上は経過していると思う。

 800m峰への登り返しで残雪が現れて格段にスピードアップ。800m峰とその北方の790m峰の間の鞍部は小さな二重山稜になっていて中央に凹みがあった。もしかしたら無雪期は湿地になっているかもしれない。

 800m峰は顕著なピークはないので無雪期はどこが最高点か判断に苦しみそうだが、今は残雪で個々の小ピークが見えるので正確な最高点が丸分かりだ。ここには背の高い木は無いので展望は良好だ。

 800m峰の下りもまたもや雪が落ちて灌木藪だが長続きせず標高770m付近で残雪登場。しかし750m鞍部一帯は雪が消えていた。登り返しで残雪が復活し、高鼻山直下まで雪が続く。地形図によると標高780m肩で西尾根から県道が合流するが、少なくとも雪の上に見えている藪に人工物は見られなかった。無雪期に登ったネットの記録でも西尾根に道は無いと書かれてあったので当然だろう。しかしなぜ車道でもないこんな藪尾根がどん詰まりの県道なのだろうか? 「酷道」と呼ばれる酷い車道や車道ではない道、それどころか廃道化した道が存在するが、それらは山の両側から延びる国道の続きであり国道である理由が分かる。しかしこの県道は高鼻山で行き止まりであり、まるで高鼻山が目的地のように見える。

 高鼻山山頂直下の雪が消えた場所では根曲がり竹が登場。まだ灌木藪がメインではあるが、標高1000mにも満たないこの高さでも根曲がり竹が混じるのだから豪雪の度合いが分かる。

 山頂付近で再び雪に乗るとそのまま残雪に覆われた高鼻山山頂に到着。西側に僅かに立木があるが展望は良好。ここまで来ると桧岳が谷を隔てた反対側に近くて存在感が半端なく、毛猛山は中岳に重なって小ピークにしか見えず目立たない。その左手にはまだ真っ白な浅草岳と守門岳。桧岳の右手には大倉山、唐松山〜下権現堂山の連なり。先週登った繁松山と登れなかったあおり山は立ち木に邪魔されて見えなかった。

 テント場からここまで2時間弱かかっており、テント場までの体力消耗もあって疲労は隠せず山頂で休憩。天気が良すぎて日当たりの下では暑いくらいなので背の低いシラビソの陰で休憩。気温はおそらく20℃以下と思われ日陰は心地よかった。今回は雪の上で寝られるように銀マットを持ってきているので、ザックを枕に雪の上に横になって足を延ばして休憩できた。

 次は土崩山。高鼻山から土崩山山頂は見えているが遥かに遠い。810m峰まで戻るだけでもあの藪にまた突っ込むので楽ではない。810m峰から土崩山方面を見た時にも雪が落ちた場所があり、さらなる藪漕ぎが必要だ。

 帰りは藪が出ている区間は登りになるので往路よりも厄介だったが無事にクリアして810m峰に到着。ここで土崩山方面へは尾根が右に曲がる。地形図ではピークより手前で尾根が分岐することになっているが、現場で見ると尾根地形は見えずてっぺんから下ればいいように思えたので雪が付いた東斜面を下る。てっぺんからはブナで見えなかったが810m峰から東へ下ると目的の尾根に達する前に小さな谷が登場して標高差を損してしまうことが分かったので、途中から右へトラバースして尾根に乗った。

 740m鞍部から送電鉄塔のある870m峰まで登り返しがきつい。送電鉄塔手前まで概ね雪が付いているように見えるが、その先の雪が消えた部分にちょうど巡視路があればいいのだが、無ければまた藪漕ぎである。  790m峰への登りはずっと雪が使えたが770m鞍部までの下りは雪が落ちて藪が登場。ここでも刃物で切れられた古い切り株があった。    770m鞍部からの急な登り返しは暑い日差しに焼かれながらで体力を奪われる。ただし雪の緩み方は思ったよりも悪くはなく、これだけ日差しがあるのに踏み抜きは皆無でコンスタントに足首までしか潜らない。これならワカンをテントに置いてきて正解だろう。

 雪の急斜面を登ってまさに雪が切れて藪が出てきたところで偶然にも送電線巡視路が登場。次の送電鉄塔は東斜面の中腹にあり、そこまで一面の残雪に覆われているので巡視路の経路は不明だが、明瞭な尾根地形が無いので斜面をほぼ一直線に下っているのだろう。ここより上部の巡視路は尾根直上に付いている。刈り払いは完璧で体に触れる藪は皆無で進行速度が一気に上がる。ただし雪が無いと暑い!

 870m峰手前で送電鉄塔を通過。ここから西側の送電鉄塔は一つ北側の866m峰から南西に延びる尾根上にあり、そこまで巡視路がどう付けられているのかよく分からなかったが、866m峰手前の840m鞍部までほぼ尾根上に続き、870m峰てっぺんは西側を巻いていた。840m鞍部でUターンするように鋭角に西側斜面へと下って雪の中に消えていたが、おそらくそこから南西尾根までトラバースしながら下っていくのだろう。帰りはこの巡視路を辿って横沢経由で570m鞍部へ向かう予定である。

 この時点でいつも使っている携帯音楽プレーヤが電池切れ。残念ながらこいつは内蔵電池なので電池交換はできずUSB経由での充電が必要だが、モバイルバッテリーは重いし今回の用途ではオーバースペックなので持ってきていない。昔は10時間以上は使えたように記憶しているが今回は7時間程度。何年も使っているので内蔵しているリチウムポリマー電池が劣化するのも当然である。ちなみにこんなこともあろうかと古いプレーヤも持ってきてテントに置いてある。明日はそれで音楽を聴きながら藪漕ぎだな。

 840m鞍部から尾根上の巡視路が無くなり、雪が落ちているのでまたもや灌木藪漕ぎ。残念ながら866m峰てっぺんまでは雪が見えないのでそこまで藪漕ぎが確定。藪に突っ込むと状態は高鼻山への稜線と同程度であり刃物跡も見られたが、その数はこちらの方が多くて古いものだけでなく比較的新しいもの、おそらく1年程度しか経過していないものが複数あった。明らかに高鼻山よりも土崩山の方が人が入っている気配は濃かったが、この藪では一般登山者が登ることはないだろうけど。

 866m峰てっぺんで残雪が現れるが次の850m鞍部までで、登り返しで再び灌木藪に突入して次の860m峰まで雪は無かった。860m峰から見る土崩山への稜線は大半で雪が繋がっているようで一安心。ここまでの藪で時間も体力も搾り取られた。

 残雪に乗って藪を回避できれば大幅スピードアップだが、高鼻山から2時間近く休み無しで歩き続けているので疲労の度合いが濃くスピードは上がらない。今日は幕営なので時間はあるので急ぐ必要はないのでのんびりでも安心できる。860m峰北側の840m鞍部からの登り返しで藪に突入するが標高860mくらいで再び雪に乗ることができた。

 標高860m付近の尾根幅が広がった平坦地では多数の熊棚があるブナが登場。半分以上のブナに熊棚があると見られるほどの高密度ぶりでびっくりだ。すべすべしたブナの幹には熊が木登りした爪痕がくっきりと残っていた。そういえばまだ今シーズンは熊の足跡を全く見ていない。かなり気温が上がっているので冬眠から目覚めていると思うのだが。今回も下山まで熊の足跡は無かった。

 土崩山山頂直下で今回初めてカモシカに遭遇。一般的にカモシカはそれなりの距離があれば逃げることはなくじっとこちらを見つめることが多いのだが、今回は残念ながらデジカメを構える前に逃げられてしまった。カモシカの足跡は多数見かけたがご本尊を見られたのはこの時だけだった。

 雪稜を登り切った先にはもう高い場所は無く、そこが土崩山山頂だった。。立木皆無の360度の大展望! ここまで来ると桧岳は小さくなり、浅草岳や守門岳の存在感が増す。この天気ではどちらの山も山スキーヤーで賑わっているだろう。逆に土崩山は登山者は年間でもおそらく数人ではなかろうか。毛猛山は国道が通行止めでも除雪が終わっていれば入山者がいるかもしれないが、まだであれば無人地帯のままだろう。

 山頂からはテントをデポした570m鞍部〜まないた山〜魚止山の尾根が良く見えるが、かなりの区間で雪が落ちて真っ黒な灌木藪が出てしまっている。計画では明日はテントを背負ってあの尾根を魚止山まで歩いて魚止山西尾根か雪に埋もれた適当な沢で下れればと考えていたが、魚止山までの藪を考慮すると大ザックで歩くのはどう考えても無謀であろう。となると荷物をデポしたまま軽装で魚止山を往復して570m鞍部へ戻って巡視路で林道に下って林道歩きとなるが、せっかく魚止山まで行って里に近くなったのにまた山奥へと逆戻りするコース取りはいかにも非効率的だ。それにあの藪を往復で2回も漕ぐのも気が滅入る。魚止山は比較的里に近い位置にあるので来年のもっと早い時期、雪が締まり切る前に日帰りで登ってもいいだろうとの判断に傾いた。

 かなり疲れたので山頂で銀マットを敷いて大休止。日陰は無いが体を動かさなければ意外と快適な体感温度であった。まだ帰りの道のりは遠く、当初計画では810m峰まで戻って尾根を乗り換えて570m鞍部までU字形に遠回するルートを考えていた。しかし往路で866m峰から西に落ちる尾根上にある送電鉄塔への巡視路の経路が判明したので、帰りは866m峰からその尾根に乗って巡視路で横沢に降り、雪に埋もれた沢を下って570m鞍部東側まで歩くように計画変更。これなら土崩山から逆戻りする距離をかなりカットできる。もっと残雪が豊富なら570m鞍部近くに達する適当な斜面で横沢へ下ってしまう手があるが、往路から見た西斜面はかなり雪が少なく、おそらく谷でも雪が途切れているだろう。下りでもテント場まで2時間はかかるかな。

 休憩を終えて出発。860m峰から藪に突入するが、あまりにも面倒なのでここから横沢へ下れないか西斜面を見下ろした。上部は完全に藪が出ているが下りなら何とか行けそうな気配だが、谷の途中で傾斜か変わるのでその先の様子を見ることはできない。雪がずっと続けばいいが570m鞍部から見上げた印象では雪が切れていた可能性が高い。それに気温が高いこの時間帯に雪崩のリスクが高い谷を下るのは危険である。しかしここから見える860m峰から西に落ちる微小尾根を見て可能性を見出した。尾根なので雪崩に会う危険はなく雪が無くなっても滝にぶち当たることもない。ただし谷と比較して雪がある可能性は低くて延々と藪漕ぎの可能性が高いが、見える範囲では尾根の中盤と終盤で残雪が見えているので半分くらいは雪が利用できそうだ。藪の区間も下り方向なら我慢できる範囲だろう。問題は岩が登場するかどうか。かなりの急傾斜の尾根なので岩が登場するリスクがあるが、こればかりは上からでは見えない。ただし、この密度の灌木藪なら先週のあおり山よりも格段に手掛かり足掛かりとなってくれるので高さ2m以下の岩場なら通過できるだろう。

 ということでリスクはあるが860m峰西尾根を下ることに決定。ここをまっすぐ下ればほぼ570m鞍部に達するので大幅な時間短縮が可能だし、下り一辺倒なので体力消耗もかなり抑えられるだろう。

 860m峰まで藪を漕いで戻り、正確な西尾根入口に達してから下降開始。相変わらず根曲がり灌木藪のオンパレードであるが、落葉しているし藪が矮小なので比較的先を見通すことができて尾根の続きが把握可能で安心できる。まずは残雪が豊富なエリアまでの急下降。登りには絶対に使わないだろうと思える斜度で、灌木に掴まって確保しながらグングン高度を下げていく。ごく小さな露岩はあったが問題にならず残雪エリアに到着。ここで少し傾斜が緩くなると同時に尾根の北側一面が残雪に覆われている。このまま雪の上を谷底まで行ければいいが、下部は傾斜がきつくなっていて見えないエリアがあり様子が不明なので沢を下るのは危険であろう。計画通り尾根を下り続ける。

 やがて残雪は尾根から北に離れていくので雪を離れて藪尾根を再び下る。再び傾斜がきつくなり滑落防止の意味で灌木藪がありがたい。高さ2mくらいの岩が登場したが灌木に掴まれば着地点まで僅かしかないので問題なくクリア。他にも小さな岩が登場したが簡単に下ることができた。とにかく尾根を外さないよう周囲の地形をよく見ながら下ることを心掛けた。特に左にルートを外すととんでもない傾斜で谷に落ち込む個所もあるので要注意。逆に右手の斜面は比較的緩やかな状態が続いた。

 再び残雪が現れたのは標高720mほどで、これまでの矮小根曲がり灌木藪から背の高いブナ林に切り替わって安全地帯だと分かる。もうこの先には危険地帯は無いだろう。尾根の下部は末広がりでどこも残雪で歩きやすいが、570m鞍部は左手方向なので常に谷を左に見下ろすようにルート取りした。そして横沢の谷底が見えてきて570m鞍部はまだ左だと判明。雪に埋もれた谷に降りる前に左に進路修正。デブリに覆い尽くされた小さな谷を横断して小尾根に取り付くとさらに左が570m鞍部であった。横沢に下りられれば簡単なのだがこの付近の横沢は深く切れ込んで谷底へ下ることはできない。斜面を左にトラバースしようとしたが傾斜が急で無理なため、少し高度を上げて雪の無いブナ林を横断して570m鞍部東側の雪の平坦地に降り立った。ここには青いビニールシートで屋根掛けしたビニールハウスのような形状の屋根が雪の上に出ていた。送電線巡視路と関係あるものだろうか?

 意外にもこの付近の横沢は狭く、完全に雪に覆われているかと思ったら水音が聞こえていて雪が消えた部分があり、小川のようなささやかな小さな流れが見えていた。もっと上流では雪の穴から轟音を立てて流れ落ちる滝が見えていたが、あの水量が嘘のようだ。おそらくは伏流化しているのだろう。これなら安全に水にアクセスが可能であり、雪を溶かして水を作らずにここから汲めばいい。手始めに行動用に持ってきた500ccのペットボトルに水を満たす。樹林帯の雪を溶かして作る水は少なからずゴミが混入しているが沢水はきれいである。

 対岸の雪面を上がってテント場到着。もう午後3時を過ぎているので本日の行動時間は約10時間。よく動き回った。テントを設営する前にまずは水汲みで2リットルの容器を持って沢を往復。これだけあれば明日の行動分を含めて問題の無い量だ。

 巡視路の真上にテントを設営。一人用テントの幅はちょうどよかった。今日は雪の無い地面の上で暖かく寝られるのが嬉しい。テント場は西斜面であり日が傾くまでは日差しで暑いくらいで、テント入口をオープンにして半袖で過ごした。

 やることが無いのでラジオを聴きながら明日の行動を検討する。土崩山から見た魚止山への稜線はかなりの部分で雪が落ちて藪が出ており、大ザックで魚止山まで行くのは断念したが、空身でまないた山までの往復にするか、それとも魚止山往復にするかは悩みどころだ。時間的には魚止山往復でも問題ないと思うが、体力と気力が持つかどうかが問題である。結論としてはまないた山山頂に到着したときに気力があれば魚止山に向かうことにした。テントから魚止山まで1時間半程度だろうと予想した。

 日が傾いて気温が下がってきてから晩酌を始めて暗くなる前に就寝。雪の上で寝るのが前提だったので銀マットの上にエアマットを敷いてダウンジャケットで冬用シュラフに潜り込んだが夜中は暑いくらいだった。標高が低くて冷え込みが弱い影響もあっただろうが、雪の無い地面の上で寝られた効果が最も大きいと思う。

 翌朝は明るくなってから行動開始となるよう起床時刻を設定。お湯を沸かして朝飯を食って出発。寝ている間は寒くなかったのでほとんど冷え込んでいないかと思ったが、テント横の雪はカチカチに凍り付いていた。これなら早朝の時間帯はワカン無しでも全く沈まずに楽に歩けるだろう。ただし斜めの雪面では滑るのでアイゼンは必要だろう。よって持っていく装備はアイゼンにピッケルとした。今日も好天でこれから気温は上がる一方なので防寒着は持たないことにした。

 出だしから灌木藪漕ぎ。まないた山まで雪が無いことは昨日判明しているので覚悟の上だ。この稜線には五葉松と思われる背の高い松が生えていて日当たりが悪い影響か、昨日の高鼻山の藪よりは少しはマシな気がするが、時々尾根上全体を覆うように横に枝を伸ばした灌木が登場し難儀する。ここでも小動物のものと思われる獣道あり。また境界標識、古い刃物の切り口も点在していたが、土崩山の稜線と違って切り口が新しそうなものは見られなかった。出発時は昨日の疲労で足の重さが顕著だったが、体が温まってくると気にならなくなりいつの間にか足の重さは忘れてしまった。

 残雪が現れて灌木藪から解放される雪の斜面の登りは案の定滑りまくるが、尾根幅が広く危険はないのでピッケルで確保しながら登っていく。これが下りになったらアイゼンが必要だろう。尾根が右に曲がるポイントが地形図上のまないた山山頂である。地形図を見るとまないた山は横に長い山頂で南端肩に標高点がある山頂とされているが、現地で見ると北端肩の方が明らかに高い。両方の肩は残雪で繋がっているので簡単に伝うことができた。

 まないた山最高峰である北の肩は西側は樹林に邪魔されて東半分の展望が開けているが、そこには土崩山が屏風のように立ちはだかっているので遠くの山並みを見ることはできない。北に見えている魚止山は結構近付いた感じがするし、思ったよりも足が動くので藪漕ぎ覚悟で魚止山を往復することに決定した。

 まないた山からの下りは少しの間だけ雪があり滑るのでここでアイゼン装着。しかし雪のある距離は短くて登りにかかると尾根上の雪は完全に落ちて灌木藪が長い距離で続くのが見えるのでアイゼンを脱ぐ。幸いにこの尾根は少し岩っぽくて生えている灌木は今までより小振りとなり、藪があっても歩きやすくなった。岩と言っても危険があるような高く大きなものではなく普通に地表に見えているだけの岩であったが、藪に対する効果は絶大のようだ。この植生は689.2m三角点峰まで概ね続いていて大助かりだった。ここだけは無雪期でも楽に歩くことができるだろう。ただし落葉している時期に限られるが。

 689.2m三角点峰で再び残雪に乗る。魚止山は次のピークであり、この先は大半の稜線で雪が利用できそうで魚止山まで足を延ばす決定をして良かったとつくづく思った。

 傾斜が緩いのでノーアイゼンのまま固く締まった雪の上を下っていき、670m鞍部からの登り返しで尾根上は雪が落ちて藪が出ていたが、西斜面は残雪に覆われた緩斜面なのでそちらを巻くことにした。ここもアイゼン無しでどうにかトラバースしたが、尾根上に雪が復活してそちらに登る斜面が急でありアイゼン装着。ごく一部だけ雪が落ちていたが藪はまだ寝ていて楽々通過して雪の上に乗ることができた。

 広い雪稜を登り終えると魚止め山山頂に到着。土崩山から見ると南北に長い平坦な山頂で明瞭な高まりがあるのかと思っていたが、緩やかで小さいながら間違えようのないくらいのはっきりしたピークがあった。稜線西側はブナがあるのですっきりとは見通せないが全体としては大展望と言っていいだろう。ここまで来ると北の守門岳が大きく土崩山はもっと大きく桧岳の山頂部だけが頭を出していた。南の高鼻山は800m峰や810m峰に隠れて見えない。ここから西尾根を下れば林道は近いのだが、やはり西向きの尾根は雪が少なく藪が出てしまっており大ザックで通過するのは厄介であろう。今年の残雪状況だと2週間くらい早い時期に入らないと藪を回避できないだろう。

 あまり疲れなかったが帰りの藪漕ぎを考えて短い休憩。これからテントに戻って撤収して長い林道歩きを考えると駐車箇所到着は正午頃になりそうだ。帰りは顔に日差しが当たる向きになるので出発前に日焼け止めを塗った。ちなみにまだ朝早い時刻なので麦わら帽子は持ってきていない。

 帰りは往路を戻る。魚止山からの下り以外の下りではもう残雪はほぼ無いので、最初の藪突入でアイゼンを収納し、その後はアイゼンは使わなかった。ピッケルも同時にザックに括り付けて用済み。残念ながらこうするとザックから飛び出したピックが灌木に引っかかるので藪漕ぎしにくいが仕方ない。ストックのように伸縮できるピッケルがあればいいのだが。

 無事にテントに到着。往復で3時間を見込んでいたが少しばかり早く到着。テントの虫干しを兼ねてゆっくりと撤収。今日も好天で朝から日差しが強いのでテントはすぐに乾いた、というか今朝は露が下りなかったのでほとんど乾いていたが。おまけでシュラフを枝に引っ掛けて虫干しできた。帰りは残りの食糧が僅かとなり体積が減るのでザックも少しだけ小さくなるが、これから先は藪は無いので大きさは関係ない。

 巡視路の下り始めは急斜面に残った雪のトラバースで、西斜面でまだ日が当たらず雪が固く締まっていると想定されるので出発時からアイゼン装着。予想通りの雪の状態でアイゼンは正解だった。尾根に乗るまでは巡視路はトラバースの連続で緩やかに下るだけであり、斜面の大半が雪に覆われた場所では巡視路がどこにあるのか判別するのは難しい。最初の雪面で道を失って適当に横移動して小尾根を乗越したらその先は藪が出ていて巡視路が見当たらず。これより下は谷が深く切れ込んでいるので道は上方だろうと尾根を上に登ると横方向に帯状に延びた残雪帯を発見。それが巡視路であった。道がまともに出ていれば分かりやすいが、雪の付き方で巡視路の位置を判断せざるを得ない場面も多い。

 送電線下を通過して杉の植林帯に入ると全くルートが分からなくなるのでとうとうGPSの登場。往路の軌跡を辿るとドンピシャで巡視路に出ることができた。その後は南斜面をジグザグに降りていくので残雪は少なく、道を失うことはなかった。ただし林道に降りる直前の雪田では道を失って最後は高さ2m程度の法面を強引に下って林道(県道)に降り立った。正確な巡視路入口より少し下流側に出たのだった。

 残りは林道歩きだが大半は雪に覆われているので水平歩きでも疲れる。もう日が高く林道の雪は緩んでいるのでデブリを乗り越える際にアイゼンは不要だった。林道脇の雪が解けて地面が露出した箇所にはフキノトウだけでなく春の花が咲きだしていた。真っ先に見かけたのはキクザキイチゲで昨年春に覚えたばかりで名前を忘れていた。ただし高山植物のヒメイチゲと似た葉と花なのでネットで種類を同定するのは簡単だった。キクザキイチゲはあちこちで群落を形成していて、白い花の個体と薄紫色の個体の2種類が咲いていた。

 次に見たのは初めての花で第一印象は「花の形、模様がコゴメグサに似ているのあなぁ」であった。名前は「カキドオシ」である。下山後に別の山の記録を見ていて偶然似た花を発見したのでそこに出ていた花の名前から検索したら間違いないことが分かった。大まかな種類さえ分からない花を検索で探し出すのは非常に難しいのだが、今回は偶然の産物で調査で楽ができた。

 他にも初めて目にする花があった。エゾエンゴサクである。この花はグーグルの画像検索で初めてまともな回答が得られた花である。これまでの画像検索では花として認識するが種類の判定はダメダメだったのが嘘のようでびっくり。もちろん最初からグーグル先生の回答を信用したわけではなく、エゾエンゴサクで検索し直して花や葉の形状、生息場所、開花時期等の特徴を複数サイトで確認した結果、エゾエンゴサクで間違いないと確信できるに至った。エゾの名が付いているが本州でも見られるとのこと。

 里に近い場所ではカタクリが満開状態。私に判別できないスミレの仲間は2種類あった。雪解け直後に真っ先に現れるショウジョウバカマはなかなか見かけなかったが、集落に達する直前でやっと目にすることができた。

 向松川集落で除雪された路面に降り立つ。ここからでは手前の尾根が邪魔で最も近い魚止山でさえ見ることができず、もっと北の須原まで下がる必要があった。ただし繁松山だけは見ることができた。車に到着して乾いたアスファルトの路面に濡れたものを広げて虫干ししながら着替え。すぐ横が杉の植林で花粉を感じたがピークは過ぎたようであった。


まとめ
 思ったよりも藪が出てしまって苦労したが計画を完遂することができて良かった。もっと雪が残る早い時期なら魚止山から林道へ下ることができたであろうが、今年なら2週間早くないとダメだっただろう。その場合、雪質が今回ほど固まっていない可能性が高く、そちらで体力を搾り取られるかも。これだけまとめて山を登るとなると通常なら幕営必至であろう。防寒装備の重量を考えるとできるだけ温かくなってからの方が有利であり「あちらを立てればこちらが立たず」状態で実行時期が悩ましいところだ。唯一、有り難い点は今回のコースでは866m峰西尾根以外に目立った危険個所が無いこと。林道と巡視路の雪崩だけ気を付ければいいだろう。

 

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